1日目−8月1日（金）− | ||||||||||||
出発いつもは朝に弱い僕だが、どういう訳か早朝四時にパッチリ目が覚めた。 顔を洗い歯を磨き、荷物の確認などの出発の準備をする。まだ旅の実感は湧かない。庭で自転車の整備をしていると、両親が家から出てきた。どうやら見送りをしてくれるらしい。 母は「ティッシュは持ったか」「ハンカチは」といったお約束の荷物確認をした後、 僕に一枚の紙切れを渡してきた。手に取って見てみると、A4の紙にびっしりと写経がしてあった。 旅の安全を祈願して昨晩せっせと書いたものらしい。照れくさくなってぶっきら棒に受け取ったが、 なんだかとても嬉しかった。ありがとうございます。 一方の父は、写経を手渡す母を見て「自分も何かしなくては」と思ったのだろうか、 現金一万円を僕に手渡した。こちらは素直に喜んでみせた。現金な息子だと思われたに違いない。 
なんだかすごく旅っぽい[5:24] 
「別れに多くの言葉はいらないわ･･･」[5:37] まずは駅へ家を出て自転車で20分ほどのところにあるJRの駅へ向かう。いかにも旅っぽい格好をしているためか、 早朝ウォーキングをする人たちにジロジロ見られる。最初は恥ずかしかったが、段々と そんな自分に酔い始め、最終的には「もっと見てくれ」と思うまでに調子に乗る事ができた。そんな感じで気分良く走っていたのだが、 駅の手前の横断歩道を渡ろうとすると、急にペダルが軽くなった。おや、と思って後ろを振り返ると、 縛り付けてあったはずの寝袋が横断歩道に落ちていた。急いで取りに戻る。まだ旅は始まった ばかりだというのにこれである。抱えずにはいられない不安から目を逸らしつつ、なんとか駅に着く。 今回の旅は「輪行（りんこう）」という手段を使って四国まで行く事にしていた。輪行というのは 電車に自転車を積み込んで移動する事だ。ただ、そのまま積み込もうとすると駅員に追い出されるので、 自転車のタイヤを外して小さくまとめ、「輪行バッグ」という専用の袋に詰めて移動しなくては ならない。なので、電車に乗る前に駅前の片隅に場所を陣取り、そこで自転車をバラすことに。 自転車屋でバイトしていたとはいえ、ほとんど接客のみにしか携わっておらず、整備に関してはほとんど 素人であったので、ものすごく時間がかかった。でも何とか袋に詰めることに成功し、一安心。 
安心したのも束の間、持ち上げてみると、重い重い。僕の自転車はそんなにいい金属を使っている訳ではないため、
とても重たい。さらに、輪行バッグには肩にかけるベルトがついているのだが、買ったのが安物なために
それがアイスの棒みたいに細く、肩にグッサリと食い込むのだ。おまけにサイドバッグと寝袋、銀マットも運ばなくてはならず、
10m歩くのも大変な格好で、ヒイヒイ言いつつも何とか電車に乗った。 | ||||||||||||
ご迷惑をおかけします乗ったはいいが、時刻は6時半。今日は平日で、 軽く通勤ラッシュになりかかっている時間帯である。少しでも迷惑にならないようにと 車両の隅へ移動し、自転車を端に立てかけ、その脇にもたれかかった。これで邪魔にならない。と思ったが、先ほどの移動によって僕は汗をだらだらかいており、それの熱気が僕の周囲に漂っているのだろう。 周りの人の眉間に少しシワが寄っているような気がした。 自転車と荷物を車内に放って逃げ出したくなったが、そういう訳にもいかないので しっかり付き添ってやることに。「息止めたら汗も止まるかな」なんて事を考えてたら岐阜駅に着き、そこで乗り換える。 
もっと考えて荷造りするべきだった[8:56] 感動は長くは続かなかった。ガタン！立てかけておいた自転車が倒れたのだ。急いで駆け寄って再度立てかける。 周りにいた乗客の人たちが少し驚いていたので、謝る。そりゃ倒れるよな･･･。反省し、再度付き添ってやることに。 足の疲れも気にならなくなってきた頃、米原駅に着いた。 米原から新大阪行きの電車に乗る。乗って驚いた。乗客が全然いないのだ。「神よ！」と思った。 四人用の向かい席の真ん中に自転車を置き、空いてる席には荷物を置いた。空席ってすごい！四人席ってすごい！ また新たな感動が湧き上がる。当たり前の事に感動してばかりだ。それだけ荷物が多いという事を分かって 頂けると嬉しいです。ニンテンドーDSをやる余裕まで見せつつ、無事に新大阪に到着した。 
いい旅夢気分[9:20] 森山さんとの出会いホームで休憩し、やって来た 和歌山行きの電車に乗り込む。そしてまた驚く。乗客は多いのだが、四人乗りの席だけ空いているのだ。 おあつらえ向きとはまさにこの事だ。遠慮なく座らせて貰う事に。電車が出発して数分後、中年の男性が 「ここ座ってもええですか」と言って向かい側の席に座った。新大阪から和歌山までは結構距離があり、 その間無言というのも気まずい気がしたので話しかけてみた。彼は森山さんといい（名前は最後に知った）、教育委員会の仕事をしているらしく、今日は和歌山まで 出張へ向かう途中だという。本来であれば、僕は学校で先生に対するような態度で接するべきであったのだろうが、 お遍路の最中ということで調子に乗っており、時折敬語抜きで喋ったりもした。それが効を成してか成さずか、 和気藹々とした雰囲気で会話をする事ができた。日頃気になっていた大学に関する質問なんかも聞けた。 電車が和歌山駅に到着し、降りるために席の上の棚（？）に置いておいた荷物を取ろうとすると、森山さんが 手伝ってくれた。いい人だ･･･。世界が100人の森山さんで出来ていたらきっと素晴らしい事になってただろう。 お礼を言って去る。 ホームでジロジロ見られたり、10歩歩いては休んだり、改札に荷物をぶつけたりしつつ、何とか駅から出ることに 成功。適当な場所を陣取って自転車を組み立てる。今までただのお荷物でしかなかったが、 あっという間に超絶便利でイカした乗り物に変身した！ 
よろしくお願いします！[13:24] | ||||||||||||
フェリーに乗る自転車に跨り、徳島行きのフェリー乗り場を目指す。ペダルを漕ぐのが楽しい。 知らない街、知らない景色。これだよこれ！ はしゃぎ様が顔に出るのを隠そうともせず、走る。途中コンビニで朝飯を買ったり、 横断歩道で若いお兄さんに道を聞いたりして、特にトラブルもなくフェリー乗り場に到着した。よし！まずはチケット売り場で乗船券を買う。値段は大人2000円＋自転車600円で、2600円だ。うん、まあ、フェリーだし このくらいはかかるよ、とケチな自分をうまく宥める。船が出るまで1時間くらい余裕があったので、待合室で 適当に時間を潰す事に。 しばらくすると、一人のおじいちゃんが隣に座った。どちらから声をかけたのかは忘れたが、 気がついたら会話してた。おじいちゃんは洋食屋を経営しているらしく、かれこれ何十年も鍋を振るってきたという 大ベテラン（？）だそうだ。外国に料理修行に行った事もあるらしい。フェリーでどこに行くのかと聞いてみると、 待合室に涼みに来ただけで、船には乗らないそうだ。なるほど。そうこうしている間に乗船時間がやってきたので、 別れを告げてフェリーに乗った。 フェリーの中には巨大な駐車場のような広場があり、乗客はそこに乗用車とかトラックとかを停めておく。 順番を待って僕も自転車を押して駐車場に入り、その片隅に自転車を停め、船員の人にしっかりと固定してもらった。 船が着くまでの間は客室でお待ち下さいとのこと。荷物だけ持って客室へ向かう。 客室は広い大部屋になっており、そこで横になったりして船が徳島に着くのを待つようだ。 荷物を荷物用の棚に置いた後、少し駆け足で甲板へ出た。 
うおー！[16:34] 
参った！[16:35] 
ニュー・ホライズン[16:37] 
客室はこんな感じ[18:20] 最初のお寺へホステルおじさんに別れを告げ、先に船を下り、自転車を押して外に出る。四国初上陸！アメリカ大陸を発見した コロンブスはきっとこんな気持ちだったんだろうな。なんて見当違いな事を考えつつ、まずは一番目のお寺、「霊山寺」へ 向かう。
溜め込んでいた魚を吐き出すペリカンのよう。[18:35] とにかく地図がないので、そこらへんにいる人に聞くしかない。港付近を散歩していたおじいちゃんに近寄り、 道を聞く。おじいちゃん曰く、ここからだと結構な距離があるようで、自転車でも何時間かかかっちゃうんじゃないの？ って事だった。まあ今日中に着かなくても行けるとこまで行ければいいだろうと、とりあえずおじいちゃんに 教わった通りの道を走り続けた。 その後も何度か町の人に道を聞きつつ走ったが、そのうちに辺りは段々暗くなり、あっという間に真っ暗になってしまった。 夜、知らない町で一人ぼっち。黒い塊のようなモヤモヤが僕を包むが、逃げるように してひたすらお寺を目指した。 たこ焼き屋にて大きな道路に突き当たった時、一軒のたこ焼き屋を見つけた。お世辞にも繁盛してるとは言いがたいが、 なんだか気軽に立ち寄れそうな感じの雰囲気だったので、 道を聞くついでにここらで腹になんか詰め込んどこうと思って 近付いていく。すると、チェーンが外れた。外れたチェーンを元に戻しつつ、たこ焼き屋のおばちゃんに寺への道を聞く。 ここからだと後30分くらいかねえ、との事。結構あるけど、しょうがない。と、隣で話を聞いていた一人のお客さんが、僕の必死な形相を憐れんでか、たこ焼きを奢ってくれた。お礼を言って食べた。すごく美味しかった。 熱くて少しずつしか食べられなかったが、大事に味わって食べた。おっちゃんは歌を書くのが好きらしく、 書いた歌を歌う女の子が愛知県に住んでいるという。「僕も愛知から来たんですよ」というと、おっちゃんは 「何かの縁かねえ」と言って笑っていた。おっちゃんにお礼を言って、お寺を目指す。 走っても走ってもなかなか着かない。標識があるわけでもないので、ひたすら道を聞きつつ走る。地図の必要性を 痛感した一夜であった。たこ焼き屋からおよそ三十分後、やっと最初のお寺に着いた。中に入る。暗闇にひっそりと 鳥居やこま犬が佇んでいる。夜のお寺は怖いな･･･。･･･あれ、こま犬･･･？ よく見たら神社だった。慌てて引き返す。数分後、目的のお寺にやっと到着した。 初めての野宿お寺に着いたはいいが、時刻は既に夜の8時過ぎである。お寺が開いているのは朝7時から夕方5時までなので、とっくに 寺は閉まっている。お遍路用の道具だとかが買えるのも朝7時からである。なのでどこかで一夜を明かさないと いけないが、お寺の周りにある民宿はきっと遅いから断られるだろうし、まず値段が高いからやめとこう。となると 残る手段は一つである。「やるか、野宿･･･。」 結局お寺の隣にある参拝用具店の裏の駐車場で野宿する事に。人生初の野宿である。最初は「お化けが出そう」だとか 「怖い人に襲われたらどうしよう」だとか考えて眠れないかなと思っていたが、人間必死だと余計な事を考える 余裕もないようで、怖いとかは全然なかった。駐車場の片隅に自転車を停め、銀マットを広げ、寝袋を 敷き、仰向けで中にモゾモゾと入る。そこで気がついた。 満天の星空が広がっていた。まるで地球を覆う黒いカーテンに、白いペンキに浸けたブラシを シュッと降ってパパパパッと点々がついたような星空が、あっちからこっちまで出し惜しみする事なく 広がっていた。分かりやすく言うと、やばかった。 明日からは寺を回るので、しっかり寝ておかなくてはならない。ボソボソとラジオを録ってから、目を閉じて眠ろうとする。 が、眠れない。蒸し暑い上に蚊が多いのだ。さらに駐車場は道路に面しているから、車の音が ダイレクトで飛んでくる。どれだけ心を無にしてみても、全然眠れそうにない。 なのでニンテンドーDSをやったり、近くにあったローソンで 漫画を立ち読みしたりしてひたすら時間を潰した。最終的には駐車場にテントを張り、その中で寝た。 一日の走行データ
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