13日目−8月13日（水）− | ||||||||||||||||||||||||||
起床蚊が気になってなかなか寝付けなかったが、一度寝入ってしまうとぐっすりと眠ることができた。 一応蚊の対策として携帯用のベープを持ってきてはいたのだが、目に見えて蚊が激減！というほどでは なかったので、今後はあまり期待しないようにしよう。
あっちにもテントが[5:38] 
そうでもないか[5:43] 
少し焼けてる[5:45] 
小学校の朝礼が水没したらこんな感じだろうか[5:59] 
いい朝だ[6:37] 
路肩を走る[6:46] 
今日はパンで[7:03] 
やたら長いトンネルを抜け[7:57] 
歩道を走ると[9:45] 
[10:40]
そんなことより三間（みま）町を見まちょう[10:52] みかん屋にて山門の前には、みかん屋があった。
家に送ろうか[11:17] 客であるおばあちゃんは、昭和期に中国の大連というところに渡ったそうだ。船旅の途中、 船員に「ストーブを点けろ」と言われたが、点け方なんか分からなかったので困ってしまい、 船員に「帰れ」と罵倒され、まだ若かった彼女は悔しくて泣いてしまった、とのこと。 「だから、人は泣かせたらいかんよ」という言葉で彼女はその話を締めくくらせた。僕はどちらかというと 泣かされてばかりいる人間なのでアレだが、おばあちゃんが50年間忘れずに抱いた悔しさの丈を聞いた以上は、 あっさり聞き流す訳にはいかない。 話を聞きながら何気なく手元のみかんをパクパク食べていたが、やはりというか流石というか、 家で食べるのよりおいしく感じる。みかん自体には 違いが分かるほどの違いもないようにも思えたが、昼が近付いてお腹が 空き始めたこと、愛媛のものだからおいしいだろうという思い込み、そして何より、孫のように 扱ってくれる二人の優しさのおかげで何倍もおいしく感じられたのだろう。なんて。 去り際にみかんが8個ぐらい入った袋を手渡され、小躍りする。お礼を言って自転車に跨り、みかん屋を後に した。 42番へ次のお寺はすぐ近くにあった。
[11:51]
オンマウスでオシャレさん[11:50] 
何回食べても飽きない[12:01] 修行次の43番のお寺は、山を越えた先にある。山なんかもう何度も登っているから、「マジで！？」となるほど 驚きはしなかったが、地図によるとその山道の峠は標高480mとあったので、動揺した。 2日目に行った12番札所焼山寺が標高700mだから、あれよりは低い。低いけど、でも東京タワーよりは高い。 とは言うが東京タワーを見たことはそんなにないから、実のところは、よく分からない。
あれを越えるんだろうか[12:18] 
きちんと整備されてる[13:02] 
生い茂ってんなあ[13:03] 20分くらい寝たところで、顔に何か小さなものが当たって目を覚ました。何だろうと思って 上半身を起こすと、いきなり土砂降りの雨が降ってきた。 
ちょっと、何してんの！？[13:23] 
あー･･･[13:23] 僕が歩いている山道は、結構車の通りが多い。5分に1台くらいは通る。僕の横を通り過ぎる車やバイクを見て僕が 抱くのは、「危ねえなこのやろう」という怒りでも、「地球に優しくねえなこのやろう」という憤慨でもなく、 「うらやましいなあ」という羨望だ。 車はアクセルを踏むだけで進むが、こっちはそうはいかない。両手で支えている自転車は、荷台の荷物が雨を吸って 巨石のように重たくなっているし、体を覆っていた気力は雨でほとんど流されてしまった。 そういう過酷な状況の中、鬼の面をして歩く自分の横をブロロンと通り過ぎていく車を見て、 「何だよあいつら」と思わずにはいられる人がいるとしたら、いや、たくさんいるんだろうけど、 その時の僕に「車は車だ」と思えるだけの余裕はなかった。 気持ちは次第に黒々としたものに覆われ、更にまるで僕の心情を表すかのように、辺りは雲に覆われて 薄暗くなっていった。 言うまでもなく間違っているのは車ではなく、雨の中を山登りしている僕の方なんだけど、 ほとんど八つ当たりに近い形で、とにかく車を恨んだ。終いには 「事故を起こせばいい」なんて不謹慎で罰当たりな事も考えた。車側からしたらとんだ迷惑だ。 「クソ」だとか「あのやろう」なんていう、若者らしい愚痴を呟きながら歩いていると、坂の終わりが見えた。 峠だった。その瞬間、不動明王のようだった僕の顔は菩薩様へと早変わりし、「さっきの車の人たちが無事に 下山しているといいな」なんて都合のいい事を考えると、嬉々とした表情で自転車に跨り、坂道を下っていく。 下るにつれて雲の切れ間から光が差し、下り終える頃には見事な快晴になっていた。 
涙目のレンズ[13:34] 
サッパリした[13:35] 昼寝これまで嫌がっていた強い日差しが、今はこれ以上ないほど嬉しい。だが、着ている衣類は下着までびしょぬれで、 自転車を漕ぐたびにビチャビチャして気持ちが悪い。橋を渡り、橋の下に自転車を停め、 日の当たる地面に銀マットを敷き、露天商のようにそこにびしょ濡れの荷物を並べた。これだけ濡れていれば 間違って買われる心配もない。ついでに日焼けのコントラストもごまかそうと、上半身裸になって 荷物の横で昼寝する。甲羅干しをするゾウガメの気分で心地よい眠りに入る。「お兄さん、大丈夫かい」 頭上の声を聞いて目を覚ました。誰だろう、警察かなと思って目を開けたら、 地元の農家のおじさんだった。僕が熱射病か何かで倒れているものだと思い、 心配になって声をかけたのだそうだ。 眉を下げて申し訳なさを、構ってもらえる嬉しさを口角を上げて 顔に出す。「すいません」と「ありがとうございます」をそれぞれ3回ぐらい言い、荷物をまとめて 自転車に跨り、再び走り出す。 43番へそういえば昼飯を食べていなかった。商店に入ってあんパンとファイブミニを買い、外で食べる。 少し休憩した後、また走り出す。そして43番のお寺に到着した。 
[15:06]
これが本堂で[15:06] 
これが絵馬[15:09] 休みながら、腹下しの原因について考える。 一番の原因は間違いなく午前の登山だろう。それでお腹が冷えたのだ、きっと。 慌てずに落ち着いて対処できたのは、僕が日頃からお腹を下しまくっている人間だからだろう。 明日世界が終わるという日にだって僕はお腹を壊す自信がある。 そして、トイレの中で世界の終末を迎える。 さて、お腹の調子は悪いが、でも今日回るべきお寺は全部回ることができた。次の44番のお寺は だいぶ離れているので、今日は適当に距離を縮めて、疲れたところでさっさと野宿しよう。 気を楽にして自転車に跨る。 44番へ右手でハンドルの操作をしながら、左手でお腹をさする。もし自分が医者だったら、こういう時 適切な対処してすぐ治しちゃうんだろうな。そう考えた後、そもそも医者はお遍路はしないかな、と思いなおす。 走りながら僕なりにお腹を診断した結果、「冷えて下したのだから、温かいものを食べれば治る」という結論に至り、 目に入ったジョイフルに入ってあつあつの雑炊を食べる。会計が済んだところでさっさと店を出て、 再び走り出す。
もうすぐ5時だけど[16:57] 
夏だからまだまだ明るい[16:57] 
ある意味同行二人[17:04] 
足長いね[17:08] 
涼しくなってきた[17:35] 
900km突破。もうすぐ1000kmだ[17:39] 
影に入っちゃってる[17:50] 神南堂日はまもなく沈みそうだ。暗くなったら寝床を探しづらいから、完全に沈む前に泊まるところを 見つけないといけない。どこかいいとこはないかな、と視線を前方に見やると、都合のいいことに 約100m先に遍路小屋を見つけたので近寄っていく。僕が犬だったなら尻尾をぶんぶん振り回していた事だろう。 小屋の前まで来て目を丸くする。
すばらしい･･･[18:53] 小屋の横にはトイレのような建造物があったので、何だろうと思って近付いてみると、 
釜戸･･･！？[18:52] 
五右衛門風呂！！！[18:52] はじめての五右衛門風呂荷物を小屋に放り投げ、早速風呂の準備を開始する。風呂の蓋をどかしてみると、 お風呂のお湯は信じられないくらい濁っていた。 恐らく、前の人が入ってから長い時間放置されてきたのだろう。垢やなんかも溜まっているかもしれない。 潔癖症の人が見たら卒倒しそうな風呂だが、まあ、入ることにした。このままではとても入れたものではないので、 洗面器を手に取り、お湯の交換にかかる。家のお風呂だと底の栓を抜くだけで湯は抜けるが、この風呂はそれができない。底に栓がないのだ。 だから、しゃがんで足元のお湯を洗面器ですくっては、立ち上がって風呂の外へ投げる。 これを何べんも繰り返すことになる。すくっては外へ投げ、すくっては外へ投げ。 そういえば高校の部活ではスクワットばかりしていたが、まさかあの練習がここで活かされる事に なるとは思わなかった。あの男だらけの武道場を思い出す。 お湯がある程度減ったところで、「このぐらい減ればいいか」と妥協し、蛇口をひねって水を入れる。 水が溜まるのを待つ間、明るいうちに日記を書いてしまう。書き終えたところで風呂へ様子を見に行くと、 ちょうどいい水量だったので水を止める。さあ、次はいよいよ風呂炊きだ。 
日も暮れてきた[19:08] 
すげえ[19:49] 
カップ麺を待つ気分だ[20:07] 
この色はやばい[20:09] 風呂の蓋をどかし、指先で温度を確認してみる。熱い。多分、荷物を取りにいったり頭を洗ったりしてる間に 適温以上の温度になっちゃったんだろう。でも入れないほどでもないので、恐る恐る湯に浸かる。ザブン。 熱い！！お風呂の底が熱い！底には木の丸い板が敷いてあるが、その隙間から絶えず熱湯が湧き出てくるのだ。 僕が涙目になっている間も追い炊きは止まらない。そこでさっさと出ればいいのに、「せっかく沸かし たんだから」となかなか出ようとせず、1分ほど両手でお湯をかき回して温度を均一にしようと努める。 限界の3歩手前まできたところで、ようやく諦めて風呂から上がり、体を拭いて服を着る。 多分、うまく沸かせば何倍も心地よく入れるお風呂なんだろうけど、やったことないからしょうがない。 将来は風呂沸かすのが上手な奥さんと結婚することを胸に誓った。 さっきから文句ばかり言ってるけど、何だかんだですごいサッパリしたし、 お風呂のありがたみをこれ以上ないほど実感した。そして何より、楽しかった。それで充分だろう。 五右衛門風呂を作って下さった扇建設の皆さん、ありがとうございました！ （今ネットで調べたら、どうやらお願いすれば扇建設の方がわざわざお風呂を沸かして下さるようです。 なんてすばらしい会社なんだ！） 小屋に戻り、お風呂の熱も冷めぬままにテントに包まり、目を閉じる。 喉が無性に渇いてうまく寝付けなかったので、近くの自販機へ行って缶入りのアクエリアスを買い、 ちょびちょび飲みながら寝た。 一日の走行データ
| ||||||||||||||||||||||||||